橋本寛之 『都市大阪 文学の風景』 2002
通天閣、新世界、釜ヶ崎の本を読み始めて何冊目だろう。簡潔ながらも深くいい本であった。これがひとつの起源とでも言えるような。確かに酒井隆史『通天閣』の中でジャンジャン横丁に関する重要なイメージを「卓抜」と形容して本書から引用しているが、『通天閣』はこの橋本氏の本を種に膨らませて書かれたものとみてよさそうである。
書き直しのような少し重複する二部構成になっているが、第一部で取り上げられている大阪を舞台にした作品は大まかに、織田作之助『夫婦善哉』、開高健『日本三文オペラ』、宮本輝『泥の河』である。これらの「小説」を軸にして大阪の街を検証していく本であるが、手がかりとなる別の書も次から次へとでてきて、しかも文学だけでなく地理的な知識も豊富で、読み応えがある。
他にはどんな本を書かれているのか気になって調べてみるが、なんとこの一冊しか出てこない。プロフィールから計算するとこの本がでた2002年には69歳ということになる。これが最初で最後の書ということだろうか・・・それならば惜しいものがある。