(~)支配勢力の第一の狙いが、2011年3月の複合災害によって引き起こされた社会的亀裂、国家的危機を、スポーツナショナリズムの鞭を全力で振るって正面突破しようとしている点にあることは、自明とはいえ、繰り返し確認しておく必要があるだろう。
そして、いま進行しているプロセスと存在しているようにみえる秩序に「波風たてない」ことが「現実」や「真実」よりもはるかに優先させられるという、日本ではもはやあらゆる局面にほとんど例外なく浸透しきったミクロな心性である。
(中略)
安部首相の「完全なコントロール」発言は、IOCにむけて、暗黙に字義以上のメッセージを発していたようにも思う。つまり、その発言で問題になっているのは、現実に福島第一原発がコントロールされているということではなく、「日本の現状」が完全にコントロールされているということ、そして、これからもコントロールするという約束である。
オリンピックとは、ジェントリフィケーションを発動させるための装置にほかならない。p101
どのような様態をとろうと、ジェントリフィケーションの帰結はただひとつだ。それは、貧民から土地を奪い取る。p105
オリンピックによる浄化キャンペーンは、日常生活の感性を動員し、そうして報復主義的反動をまき散らしていくことだろう。貧しき者たちを「迷惑」な存在だとする差別的感性は、都市空間をいっそう広く覆い尽くしていくに違いない。p107
原口剛 貧富の戦争がはじまる 『反東京オリンピック宣言』