街はトワイライ

CD屋トマト先輩の日々

TINY TIM タイニーティムが好き

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大事なタイニーティムコレクション。(残念ながら全て私物で現在CD屋ではあつかってません。)

中でも今気に入っているのが『Tiny Tim's America (2016)』

 Bandcampが存在することを知り、そこでDL購入→自作CDに。出会ってすぐながら、もしかしたらこのアルバムが彼のベストかもしれないと今思っている。リリースされたのも最近の2016年、いわゆるたくさん出ているタイニーティムのコンピレーションのひとつではあるが、この作品が変則的なのは、「1974年にタイニーひとりで録音していたリハーサル音源を元に、オーバーダブを加えて完成させたニューアルバム」という点。

 

 と内容を書いてもまぁそんなに真新しい企画ではないと思うが、その出来が素晴らしい。映画にも出てくる生前のタイニーと交流のあったRichard Baroneのプロデュース、および実従兄弟であるEddie Rabinのアレンジが絶妙である。40年も前の音源を下手に触ると何もかも台無しになってしまいそうだが、本当に最小限のオーバーダブにとどめられていて、しかし出るところはちゃんと出ていて(実際アルバムの冒頭は本来入っていないピアノから始まる)、実に素晴らしいスパイスとなっている。何より聴くと楽しい!Bandcampの(Expanded Edition)では、手を加える前の「Naked」音源も多数ボーナスとして聞くことができるが、ちゃんとアルバムとして完成した『Tiny Tim's America』を一度聴くとその弾き語り版では少し物足りなく感じてしまう。

 

 プロデュースと言えば、タイニーの1st~3rdアルバム、Repriseレーベルの3枚は実にオーバープロデュースであると聞くたびに感じる。たぶん皆が一番最初に耳にするだろうファースト『God Bless Tiny Tim (1968)』はそれが特に顕著で、あの彼の唯一無二の個性がゴタゴタに塗りたくられたサウンド類で埋もれてしまっている。1968年というサイケ全盛期なのでそうなって当然だったのだろうが、今聞いてもこれら初期3枚はピンとこない。タイニーティムの味は彼の存在そのものであって、言わば彼がただ立って喋ってるだけで十分である。

 

 そのような観点からこれまで、彼のベスト作品はファンクラブプロモ用に200枚だけ作られていた1980年の『Wonderful World of Romance 』(※2006年に日本のみで初CD化)だと考えていた。この作品は実にシンプルなアレンジで、彼の歌以外にはウクレレとピアノ、わずかにチェロそれだけで、曲紹介も含めタイニーのステージに近い、彼の素晴らしいタレント丸出しの逸品だが、そのアルバムに勝るとも劣らない作品『Tiny Tim's America』に今回であえて実に嬉しいわけである。それでこんなに長い文字を打ち込んでいる。

 

 年に数回タイニーティム熱が再燃する。今回はやっと観れた映画『KING FOR A DAY』がきっかけであった。このドキュメンタリー映画の公開はつい最近の2020年、かろうじてDVDを入手した。辛い家庭環境の中、レコードと楽器が唯一の救いだった少年時代。家から飛び出してフリークスショウで「人間カナリア」の見世物として歌っていたこと、テレビに出演〜一気にスターの階段を駆け上り、転落し、また登り転落し。人気低迷後はずっとサーカスで歌っていたようだ。生涯に3度の結婚、そして1996年に訪れる彼の死はステージの上で。

 

 タイニーティムが歌う姿に勇気をもらい、その歌を聞くたびに今では消えかかっている「歌手」のこと、同時に「歌」のことを深く思う。本来「歌手」と「歌」は別のものだ。そして歌は歌手よりもずっと長く生きる。

 

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『Tiny Tim's AMERICA (2016)』

フィジカルはレコードとカセットのみ。

 

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『Wonderful World Of Romance (1980)』

オリジナルはジャケさえ無い限定盤。

 

 

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