手探りクラシック 2024年上半期
#手探りクラシック
2024上半期まとめ よかったアルバム
Dinu Lipatti / Chopin: Waltzes
Tatiana Nikolayeva / Bach: Goldberg Variations (1992)
Walter Gieseking / Mendelssohn: Songs Without Words
Walter Gieseking / Schumann Brahms
▫️リパッティのワルツ。せっかくピアノを聴くのだからショパン!という感じはまだあり、その中でも個人的好みに照らし合わせても唯一マイナスな点が見つからないアルバム。1950年7月録音。その12月には亡くなってしまう(&40sの音源は音が良く無い)のでいろいろギリギリで残った奇跡的名作かと思う。
▫️ニコーラエワ、最後のゴルトベルク、1992年録音。一番ゆったりしているはず、バッハの作品全体に言えるが、迷路のようにまだまだよくわからない中に何かが見えて来そうな深さ魅力がある。特にこのアルバムはジャケの絵の謎も付加されてたぶんこの先ずっと音の中で迷える感じがする。
▫️ギーゼキングの無言歌集。これも亡くなる同年の1956年録音。わずか2ヶ月前。アンビエントからクラシック(とはいえピアノのみ)に入ったと言ってよいので、アンビエント的、全体に穏やかな言うなれば寝る前に聞ける作品を探していたわけだが、この作品が正にそうで、そして滅多に無い。ジャケも素敵
▫️こちらは本来CDは存在しない自作なので番外編。ギーゼキング、シューマン:子供の情景とブラームス:3つの間奏曲とのカップリング。録音はどちらも1951年。音源は先の無言歌集もあわせて48枚組BOXより。今一番好きなピアノ曲はこの中のブラームス作品117、1番である。なぜか楽譜まで買った。いつか
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#手探りクラシック
もう30年くらいこの仕事してるがクラシック音楽だけは本当に何も知らなかった。このまま触れることは無いのかもしれないと思ってた未開の扉が今年少し開いてきたので発見を記してみる。2024年2月
Randy Newman
久しぶりにオレコンピを作った。ランディ・ニューマン期がまた来ている。あなたは歌を聞いて聞きながら泣くことがあるだろうか?俺はある。しかも英語の歌だ。なんてこった。ランディ・ニューマンの「She Chose Me」と「Wandering Boy」です。このコンピにも無論入れたが最後に続けて入っているので涙腺。
ランディさんはまだ音沙汰がないけれど、お元気だろうか。2017年の『DARK MATTER』がラストアルバムになってしまうのだろうか。ちょっと先走りすぎてはいるが、でもそうであったとしてもこんだけ素敵な歌を歌ってくれてるのだから、ランディさんありがとうと言いたい。
2023 BEST
2023年に良かった9枚のアルバム
Duster / Contemporary Movement (2000)
betcover!! / 馬 (2023)
坂本龍一 / 12 (2023)
Ferkat Al Ard / Oghneya (1979/2022)
Tiny Tim / Tiny Tim's America (2016)
O.S.T. (Nino Rota) / 8 1/2 Soundtrack (1963)
Bibio / Phantom Brickworks (2017)
Brian McBride / The Effective Disconnect (2010)
辻井伸行 / ショパンコンクール 2005 (2009)
■Duster / Contemporary Movement (2000)
このアルバムを聞いたのは今年が初めてなはずなのに、聞くたびに昔から聞いてた思い入れの強い90sアメリカの音楽と同じ感覚に包まれる。ジャンルを分ければやっぱりスローコアだろうか?しかしその張りつめた雰囲気と同時にローファイ的ゆるさも持ち合わせた実に不思議なバンドだ。Slint + Pavement という感じか?晴れても雨でもない日に聞いてると本当にグッとくる瞬間がある。
■betcover!! / 馬 (2023)
これは来たな。と3回聞いて思った。傑作。こんなの作れない。「とち狂った寺尾聰」とでも形容すればいいだろうか、ピアノが効いたフリージャズまで飲み込んだバンドのダイナミズムと、何よりもベストテンとかテレビでも出そうなほどの見事なメロディと色気、さらに追い打ちをかけるように、文学だか何だかわかんないぶっ飛んだ歌詞。やさぐれた半笑いで聴き終わったころには目が据わっている。
■坂本龍一 / 12 (2023)
何度かこのブログでも記したが、やはり2023年で思い出すのはこの1枚。いくら聞き返してもピンと来ないこれまでの坂本龍一の作品と比べると、今までの作品は「これが音楽だぜ?」とでも言いたげな思惑が浮き出るが、このアルバムにはそれがかなり少ない。だから聞けるのかも。聞きながら逆にこちらが「音楽ってなんだろう?」と考える余白の存在。その誇示もアーティストにとって、特に世界の坂本と言われる人物には必要だったろうが、そこから解放されたような、解放というか忘れさせた出来事があった。
■Ferkat Al Ard / Oghneya (1979/2022)
アラブの良質リイシューを続けるレーベル「HABIBI FUNK」より。そのリイシュー盤はジャケも変えられていてもうちょいだなあとずっと思っていたが、1979年のオリジナル盤から取り除かれた2曲のうち1曲を戻し、付け加えられた最後の曲(2曲差し替えることがリイシューの条件だったと詳細に書かれている)をはずすと、かなり良くなった。ジャケもオリジナルに戻した。ブラジルのMPBと同じ空気を感じている。欧米から取り入れたバンドサウンドににじみ出るアラブ風味。レバノンのニューミュージック傑作。
■Tiny Tim / Tiny Tim's America (2016)
好きで集めているタイニーティムの作品の中でも今のところ一番好きかもしれない。「1974年にタイニーひとりで録音していたリハーサル音源を元に、オーバーダブを加えて完成させたニューアルバム」ではあるが、その重ね具合が実に精妙で本当に最小限のオーバーダブにとどめられていて、しかし出るところはちゃんと出ていて(実際アルバムの冒頭は本来入っていないピアノから始まる)、実に素晴らしいスパイスとなっている。何より聴くと楽しい!今年は映画『King for a Day』も手に入れた。
■O.S.T. (Nino Rota) / 8 1/2 Soundtrack (1963)
フェリーニ映画『8 1/2』名前だけは頭にずっとこびり付きながら観たのは今年が初めてだった。長い苦悩の迷宮からやっと抜け出し訪れたラスト、よく考えるとなんだかよくわからないが(元々は列車が知らない場所へ向かう別のラストシーンが用意されていたようだ)あの解放されたグランドフィナーレに涙がでてしまった。そのサントラ。愉快だけど切ないような、それが人生ってことか?そんなサーカスのようなテーマ曲がやっぱり印象的だ。自分が死んだら葬儀で流したい気持ちにもなるが、もう少し選ぼう。
■Bibio / Phantom Brickworks (2017)
ビビオって車があったような・・・。それはいいがレーベルWarpから多くの作品を出している音楽家の、偶然YouTubeでビデオが目に留まり発見したアルバム。完全なアンビエントミュージックだが、このような作風のアルバムは他には出してないのが不思議ではある。かなり静かでミニマルな循環系ドローンをベースに、正直そこまで取り立てて傑作とは思わないが、娘が生まれる病院へ急ぐ午前3時にこのアルバムが車で流れていた。期待と不安とを包んだ音。
■Brian McBride / The Effective Disconnect (2010)
彼が今年亡くなっていたのをだいぶ経ってから知った。このアルバムを聴いていると余計に残念だ。蜂のドキュメンタリー映画のための作品であり、結果的にラストアルバムになるだろうソロでは2枚目。Stars of the Lidのシニカルさ(それが味だが)から抜け出したような、柔らかなアンビエント。アンビエントというよりそこから進んだクラシカルな弦楽音楽の成分もかなり強まっているので、この先の音が楽しみだった。
これは来年へ続くためのセレクト。ずっとクラシックが聴きたいと近年思ってきたが、はじめて少しはまっているCD。よく聞いているアンビエントからの流れでクラシックに興味を持っていたので、サティやバルトークや近代の?まったり系を調べていたのだが正直ピンとくるものが無かった。楽器の独奏自体もほぼ興味が無く、皆が好きなグールドもキースジャレットにも首をかしげてきたが、ショパンだったのか!?ショパンが誰かもまだわからないが、わからないからこれから楽しみだ。辻井氏のピアノはやわらかくてキラキラして聞こえる。この17歳の少年期の録音だから特にそう感じるのかもしれない。
THURSDAY AFTERNOON 022
#Thursday Afternoon
022
MLO
Oumamua
2022
⭐⭐⭐
「1993-1995に録音されながら、お蔵入りとなったまま約30年、宇宙空間を漂っていたエレクトロミュージックの飛来。」そう自作帯に書いた発掘音源コンピ。往年のインテリジェンスを彷彿とさせる・・・というか、あの当時のまま眠っていた良質インテリジェンステクノを再編集した作品で、新鮮味という意味では薄いがインテリジェンス好きならあの空気のままなのできっと気に入るだろう。かなりアンビエント寄りではあるが、ビートものやニューエイジタイプの曲などいろんな変化をみせながらも、2枚組合計80分程度の構成が見事な分、全体を通して心地良いなかなかの好盤である。
興味を持ったポイントのひとつはアルバムタイトルである「オウムアムア」。こちらも調べまとめたものを帯にした。※現時点でまだ謎セレクション、CD在庫あり。
「オウムアムア(Oumuamua)は、ハワイ語で「遠方からの初めての使者」を意味する、2017年に発見された、天体観測史上初めて太陽系外から飛来した恒星間天体である。全長約400メートルで極端に細長い葉巻型をしており、岩石質または金属質とされるが、太陽系から離れる際に謎の加速をみせたことから、地球外文明によって建造された宇宙船では?との議論もある。」
THURSDAY AFTERNOON 021
#Thursday Afternoon
021
Lemon Quartet
Crestless
2020
⭐⭐⭐
オハイオのジャズカルテット、デビューアルバム。今年2023年に新作も出ているがよりアンビエント的、そしてジャケも美しいこちらを。最後の最後にビートが入って来るがそれまではひたすら、ストイックなほどのアンビエント/ドローンタイプの曲が続いていく。サックスをメインにエレピやヴァイブに、どの楽器も必要以上に飛び出さず全体で淡いムードを保っている、これを渋いと形容するのだろうか、ぼーっと陶酔できる作品である。ECMなどにこんなタイプのアルバムなんかありそうだが、それにしても始終静けさをキープしている「生バンド」によるアンビエント作品はちょっと珍しいのではないだろうか。他に思い出したのはGigi Masin の『Wind』。新作の方はもう少しバンド感が出てきていた。
このアルバムもフィジカルはレコードのみなので、Bandcamp購入で自作CDに。しかし今年はだいぶBandcampにお世話になった。Bandcamp無いと困る。あと紙ジャケ。自作のCDはほぼすべて紙ジャケになった。理由は収納スペースの問題。CD多すぎ。
THURSDAY AFTERNOON 020
#Thursday Afternoon
020
Joseph Shabason
The Fellowship
2021
⭐⭐⭐
カナダのサックス~マルチ奏者の3rdアルバム。ジャンルを当てるならなんだろうと今Discogsを見ると「Ambient / Experimental」となっていた。そうですか。確かに耳触りはアンビエントかつニューエイジかつ、フォースワールド~なんともいろんな音楽のエッセンスを包んだニュージャズ的(近年のサムゲンデル、サムウィルクスあたりの音楽はなんて呼ばれてるのだろう?→これもDiscogsを見ると「Contemporary Jazz」とあった)インストアルバム。
コンセプトは少し重たいものがあるようだが、その物悲しくも懐かしい思春期を振り返るように、ベーシックに暖かいものが通っている優しいアルバムである。一曲目の冒頭に聞こえる子どもの歌は本人の幼い頃の声だろうか?そこから引き込まれる。謎セレクションで自作の帯も作って店の棚に並べた去年からずっとよく聞いているアルバム。ロードムービータイプのビデオも記憶に残っている。
THURSDAY AFTERNOON 019
#Thursday Afternoon
019
Phantom Brickworks
2017
⭐⭐⭐
アンビエントの代名詞ブライアンイーノはどうやらレーベルWarpを離れたようだが、このBIBIOは近年そのWarpからリリースを続けているアーティスト。はじめて聞いた。そしてこのアルバムだけにハマっている。いいアンビエント、いいドローン、って一体なにを基準に判断してるのだろう??という堂々巡りの自問をまた繰り返すわけですが、このアルバムは心地よい。「場所」というコンセプト~映像ドローンタイプの ビデオに反して、あまりに簡素なアートワークは少々玉に瑕であるが、かなりムードを持ったアルバムであると思う。シンプルだが繰り返し聞いてしまう。
聞きながら今気づいたが、このアルバムの音にも暗いと明るいと両方、マイナーとメジャーとがどちらも混じったような、白黒つかないような感覚がある。だから心地よいのかもしれない。それはあまり聞かない(聞けない)クラシック音楽に頻繁に感じる響きだ。聞いてると悲しくもあり、嬉しくもあるような。そんな音。
出産の立ち合いに急いでいる暁までまだ先の午前3時半、このアルバムがカーステレオから流れていた。不安と楽しみと入り混じった今の心境と近いかもしれないなあと思ってた。2023年11月30日、4時29分、女の子が産まれた。
THURSDAY AFTERNOON 018
#Thursday Afternoon
018
The Caretaker
A Stairway to The Stars
2002
⭐⭐
好きなアルバムにセイバーズ・オブ・パラダイス『ホーンテッド・ダンスホール(1994 Warp)』という作品があるが、このケアテイカーのセカンドアルバムはほぼ同じく「Haunted Ballroom」(オバケのダンスホール)がコンセプトになっている初期三部作の中の2番目である。ダークアンビエントという分け方はあまりピンとこないところがあるが(例えばイーノは1フレーズの中に暗いも明るいどちらも含むので)、まあこのケアテイカーのサウンドは「ダークアンビエント」という紹介が分かりやすいだろうなと感じる。
しかしこのアルバムに限らずフィジカルがひたすら探せないアーティストの一人で、その理由はSPやら昔のレコードを素材に(サンプリング)しているため、かなり限定数しか作ってないんじゃと考えるが、アーティストの実体もよくわからず、謎を秘めたままである。本国ではある程度有名なのだろうか?Spotifyでも聴けないが実はBandcampページが存在するのでチェックを。無料でDLできるアルバムまである。https://thecaretaker.bandcamp.com/music
アンビエントに限らず、暗ーい音楽を好んで聞いてはいるが、このアルバムみたいにちょっと「怖い」という感情を抱かせる音楽はあまり無かったりする。「暗い」≠「怖い」だしどちらかというと「悲しい」=「怖い」か?しかし怖いんだけど、やっぱり気になって聞いちゃうところがある。ところで「怖いアルバム」ですぐ思い出すのは映画エクソシストのサントラです。
THURSDAY AFTERNOON 017
#Thursday Afternoon
017
Nils Frahm
Music for Animals
2022
⭐⭐
とりあえず星をつけてみたが、リリースから一年経つにも関わらず未だに解せぬ珍しいアルバム。解せぬというのは良いんだか良くないんだかまだわからないという意味であり、CD3枚組という物理的な長さが作品をリピートさせることを困難にしているが、以前夜中にiPhoneのスピーカーで小さく流していたとき急に傑作かも!?のキラメキを感じたのも確か。なんともつかめない。
ネオクラシカル系として紹介されるニルスフラームの作品の中ではかなりアンビエント寄りのアルバムであり、「Music for ~」とイーノでお馴染みのタイトルになっているのも偶然ではないはず。本人のインタビューで、曲を途中で切らなかった(エディットしなかった)的な発言をしており、収録曲は10曲なので通常であればそれぞれをエディットして70分に収まるように1枚のアルバムとして完成させるのだけど、今回はあえてそれをしなかった。ということらしい。全10曲で合計3時間の長尺「実験」作品である。
写真はジャケの1枚のみ、クレジットも激しく最小限で、かなりミニマルなこの3時間に没頭するには手掛かりが少々少なすぎる気もするが、、、しかし相変わらず鈍く輝くような彼のシンセの音色は非常に魅惑的である。
THURSDAY AFTERNOON 016
#Thursday Afternoon
016
Brian McBride
The Effective Disconnect
2010
⭐⭐⭐⭐
8月に亡くなっていたことをつい最近知り驚いたStars of the Lid の1/2ソロアルバム、2枚目にしておそらくラストとなる作品。蜂についてのドキュメンタリー映画『Vanishing of the Bees (蜂の消失)』のサントラとして制作されたようだ。映画をYoutubeでざっと見たが、全編にナレーションがかかった映画なので、正直Brian McBrideの音楽は全く目立っていなかった。
しかしそれに反してこのアルバム自体はとても素晴らしい。Stars of the Lid、特にラストのピンクを好んで聞いていたが、もしかしたらそれよりずっと良いかも。なんでこんなに心地よいんだろう?聞きやすいのだろうか?といつの間にか終わってるアルバムを前に考える。SOTLのピンクもかなりクラシカルな要素が強まっていたが、それはきっとこのブライアン・マクブライドの色だったのだろう、このサントラはさらにクラシック音楽要素が強まっている。SOTLの時の少しシニカルで張りつめていたものが、ふわっと溶けたような、ミニマルなリピートタイプのドローンが薄まったからだろうか、半ば集中すると試練のようだった感覚はほとんど感じられない。いつの間にかアルバム42分が過ぎている木漏れ日のような純粋でやわらかなサウンド、蜂が飛んでいる緑の風景を想いながら。