街はトワイライ

CD屋トマト先輩の日々

THURSDAY AFTERNOON 002

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#ThursdayAfternoon
002

 

坂本龍一

12

2023

⭐️ ⭐️ ⭐️ ⭐️ 

 

 このアルバムについて既に何度か記したが、未だに少し特別なCDであるし、まだ考え事をしながら聴いているところがある。それは「音楽って何だろう?」というような漠然とした疑問も含んだもの。そういう漂うような時間をこのアルバムと共に静かに過ごすのは心地がよい。このアルバムに触れてから改めて、そうか坂本龍一アンビエント作品もあるんだと気づき、しかし結果的にはいくら過去作品をあたっても、『12』のような純粋なアンビエントアルバムは存在しなかった。近年のいくつか、過去にもそれらしきものはあったのだが、やっぱり全く好みではなかった。不思議である。

 三田格氏のレビューで、本人はアンビエントを作ったことが無いと断言したという話もずっと気になっているが、それは単にイーノの提唱した代名詞的な「アンビエント」に俺は乗っからないよという意味ではないだろうか。ふたりの歳もそこまで離れていないし、確かに「アンビエント」で括られてる音楽はイーノが初めて作ったわけではない。

 なぜこの『12』だけ好んで何度も聞いているのだろうか?という答えがこのアルバムの中身なんだろうが、もしかしたら最後にしてはじめて?ほぼ気負いがない、とても純粋な音楽をリリースしたのではないだろうかと考える。こちらが入り込める空間がある。ピアノも慌てるように調達したようだし、音や環境やなにより自分の身体の状況をも含めて、これが今の自分、この瞬間が音楽だ。というただそれだけの。ミスタッチと思われる音にもあざとさが無く、とても自然に聞こえる。

 最後の陶器の音は、アルバムのそれまでの音とはかなり異なっていて、そこに来るとはっと目が覚めるような感じになる。何かの合図、何かを知らせる合図なのかなといつもイメージする。そこが境界であるように思う。

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