1963年5月12日のカーネギーホール公演後にリリースされたのだが、なぜこんなに地味で一風変わった選曲のライブ盤を出したのだろう。盛り上がるようなスウィンギンな曲は1曲もないし、熱いアフロもなし、2曲目にいきなりボーカルなしのインストピアノ曲、中盤急に日本のメロディ「さくらさくら」、B面も始終静かでラストのつながった2曲も1959年の初のライブ盤『At Town Hall』に2曲とも既に収録されている曲であり、ちょっと不可解な選曲になっている。実際、地味なアルバムを補うように?この後に同じ日のカーネギーホール公演から選ばれた2枚目のライブ盤『Folksy Nina (1964)』がリリースされている。
ニーナのその想いは大げさなものではないはず。既にシンガーとして注目されていたニーナに、カーネギーホールの観客が求めていたのは歌でありジャズ/ブルースであったのは確かであろう。そんなニーナの状況/心境を知ると、アルバム2曲目ピアノだけの「Theme from Samson and Delilah」はものすごく刺さる。あまりいい音質でない60年前の舞台から届く、優雅で美しくまた力強いピアノの一音一音が輝いている。彼女の絶たれた夢があふれ出してくるようで、静かに圧倒される。この一曲のためだけにもアルバムを手にしてほしいと思います。